濁った僕を抱きしめて
璃恋の手と足を縛っていたロープをナイフで切ると、璃恋は倒れている男に近づいた。


口元に手をやって、もう息をしていないことを確かめると俺の方を向いた。


「何だったんでしょうか、この人。拓海くんに恨みがあるとか言ってましたけど、本当なんですかね」
「なんて言ってたの?」


璃恋はまた男の方を向く。
長い髪が片眼だけを覆い隠している。


「彼女さんを殺されたとか何とか。それだけでここまでするかって感じですけど」


璃恋の言うことも分からなくもない。


彼女を殺されたからと言ってここまでするべきなのか。
今までの俺ならくだらないと思っただろう。


ーー今なら少し、分かる気がする。


縛られたことによって赤くなってしまった璃恋の手を取ってさする。
口にテープでも貼られたのか、赤い痕が出来ていた。


「どうしたのこれ。口なんかやられた?」
「あぁ、ガムテープで塞がれてて。案外剥がし方優しかったですよ」
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