濁った僕を抱きしめて
「これを教えてくれたって?」


拓海くんが笑う。
その瞳には光が灯っていなくて、いつしか見た男のようだと思った。


嫌だ。
拓海くんはあんなケダモノに落ちて欲しくない。


綺麗で、美しくて、それって意味が同じなのかもしれないけど、わたしにとってはそういうものでいて欲しい。


でも拓海くんは、ケダモノになることを望んでいるんだとしたら?


もうこの際わたしのことすら殺して、すべてを失う気でいるとしたら?


その時わたしは、それを受け入れることが出来るんだろうか。
でもきっと、拓海くんならー


「逃げなよ」


俯いていた顔を上げる。
瞳には再び光が灯って、それだけで少し安心する。


「え?」
「早く逃げなよ。それで、俺に誘拐されたって言いな」
「何でそんなこと、する意味がないです」
「あるよ」


「璃恋が、幸せに生きれる」


分かってしまった。
わたし達はどこまでも同じことを考えている。
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