濁った僕を抱きしめて
ーーお互いに、幸せに生きて欲しい。


その為なら、命さえ惜しくない。



拓海くんはわたしに生きて欲しくて、己が犠牲になる道をわたしに歩ませようとしている。


それがわたしにとっての幸せになると、信じて。


「……そんなの」


でも。


「そんなの、全く幸せじゃないです」


拓海くんが困ったように眉を下げる。
困らせてしまっているのも分かる。
ここで出て行って、拓海くんを犯罪者にすることの方がわたしにとっての楽な方にもなる。


分かっているのに、わたしはそれを選ばなかった。


「わたしにとっての幸せは、拓海くんといることなんです。どんなに辛くてもいい。苦しくてもいいから、拓海くんといたいんです」


気づけば瞳から涙があふれていた。
わたしはそれに構わず話し続ける。


「いっそのこと、拓海くんになら殺されたって良いんです」
「何言ってんの」


わたしを突き放すことはするのに、殺すことは出来ないらしい。
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