濁った僕を抱きしめて
どこまでも優しい人だ。


「殺せないって言うなら、わたしは出て行きませんよ。足にでも縋りついて、ずっと一緒にいてやりますから」


やっと垂れてばかりだった涙を拭った。
拓海くんは何も言わないままわたしのことを見つめている。


やがてずり、と拓海くんの足が動いて、ゆっくりとわたしの方にやって来る。
壊れ物でも扱うような手つきで、私のことを抱きしめた。


「……いいの?一緒に逃げることになるよ」
「拓海くんとならなんでもいいって言ってるじゃないですか」


ずび、と鼻を吸う音が聞こえる。
拓海くんの瞳から何かがこぼれていくのが見えた。


「拓海くん、泣いてます?」
「泣いてないし。ちょっと目にゴミが入っただけだし」
「言い訳じゃないですか」


拓海くんはわたしから離れると、もう一度ソファに座ってニュースを見ている。


「どうするんですか?ここにいるならバレるのも時間の問題ですよ」
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