濁った僕を抱きしめて
「そうだよね、取り敢えず今日中にここを出よう。いい?」
「わたしはいいですけど、住むところはどうするんです?わたしの家無理ですよ?」


拓海くんがにやっと笑った。
まさか用意でもあるのだろうか。


「もしもの時に備えて何個か用意してあるから。その心配はしないで」
「もしもの時って、指名手配される気満々だったんですか?」
「いやまぁ、そうはそうなんだけど」


拓海くんがクローゼットを開ける。
奥にしまわれていたスーツケースやボストンバッグを取り出すと、床に放り投げる。


「はい、まず必要なものだけ詰めて。あれだったらまた買えばいいし」


親の影響で引越しは何度も経験してきた。
男が変われば住みたい場所が変わる母親の影響で、一年に二回も引越しをすることはザラじゃなかった。


父親も文句を言ってくれればよかったのに、何一つ言わないから困ったもんだ。


お陰で荷物をまとめることが得意になった。
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