濁った僕を抱きしめて
拓海くんが少し驚いたような顔をしてから笑った。


それからまた宙に視線を移す。


「俺は寂しくないよ。璃恋といれるなら」


そう言う横顔が何よりも好きだと思った。


微笑みながら窓を閉め、鍵をかけた。
もうこの窓に触れることもないのだろうか。


「よし、行くよ」


拓海くんが先に歩き出す。
わたしはリビングの電気を消し、大きな窓に背中を向けた。


靴を履き、ショルダーバッグを肩にかけて立ち上がる。
拓海くんが部屋に鍵をかけ、鍵をポケットにしまった。


「またここに来ることって、あるんですかね」
「どうだろ、でもあるかもね」


車に乗り込んでシートベルトをしめた。
拓海くんが車にエンジンをかける。


低い唸り声を上げて車が動いた。


「逃亡劇の始まり……ですか?」
「そんなかっこいいもんじゃないでしょ」


わたし達を乗せた車はどこに向かっているのだろうか。
< 149 / 241 >

この作品をシェア

pagetop