濁った僕を抱きしめて
2
遠くに人の影が見える。
視界全体がぼやけていて、誰なのか全く分からない。
「誰……?」
その影に向かって歩いて行く。
確かに歩いているはずなのに、影との距離が近づくどころか遠くなっていく。
「どういうこと、誰なの」
世界にはわたしの声しか響かない。
誰も答えない。誰の声も聞こえない。
ここは何なのだろう。
わたしは拓海くんと車に乗っていたはずだ。
窓の外から見えていた景色もこんなものではなかった。
「……拓海くん!」
遠くに拓海くんの姿が見えた。
名前を呼んでも振り向いてくれない。
それどころかどんどんわたしを置いて歩いて行く。
あれは拓海くんじゃない?
いやそんなわけがない。
毎日隣で見た拓海くんだった。絶対にそうだ。
必死に走る。
転んでも転んでも立ち上がる。
ふと、拓海くんが振り向いた。
それと同時に、少しずつ晴れていた視界がまた曇り出す。