濁った僕を抱きしめて
「何もないですよ?」
「あるって、そこ」


指の先を辿っていくと黒い何かがあるように見えた。
近づいてみると拓海くんが大声を出す。


「ちょっ、そんな近づかないでよ!飛んだらどうすんの!」
「拓海くん、こんなのに怯えてたんですか?」


拓海くんが怯えていたのは小さい虫。
わたしは近くにあったティッシュでその虫をそっと掴むと、窓を開けて逃がしてやった。


「えっ逃がしちゃうの!」
「はい、だって殺すのはかわいそうじゃないですか」
「かわいそうじゃないって、この世から虫は消えるべきなんだよ」


とんでもない暴論だ。
拓海くんに掃除続けてくださいね、とだけ言って下に戻る。


また虫出たらどうすんだよなんて言っていたけど聞かないふりをしておいた。


洗面所もある程度終わったし、後はキッチンだけだ。
キッチンが一番やばいのではと密かに心配していたけど、あまり汚れていなくてほっと胸をなで下ろした。
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