濁った僕を抱きしめて
今までの仕事をしているときも死と隣り合わせではあったけど、今の方がよっぽど死と隣り合わせな気がする。


でもそうやって生と死の狭間に立たされたわたし達の絆は、何をしても切れないほどに強くなっている気がする。


買い物を終え、逃げるようにスーパーを出る。
逃げるようと言っても、怪しまれない程度だけど。


いつもならまっすぐ家に帰れるのに、この日だけは違った。


ーー声を、かけられてしまったから。


「あの」


無視して歩いても良いのだけれど、そうすると追われたりするからやめた。
振り返ると警察官がわたしのことを見ている。


汗がばっと噴き出る。
手にかけたレジ袋が滑り落ちそうだ。


いけない。
動揺したら認めているのと同じじゃないか。


わたしは何事もないように微笑むと、レジ袋をきゅっと握った。


「何ですか?」
「いや、この男を見ませんでしたかね。この辺りで目撃情報が出ているんです」
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