濁った僕を抱きしめて
警察官が取り出したのは拓海くんの写真だった。
分からないような表情を作る顔とは裏腹に、ドクドクとうるさいほどに心臓が音を立てる。


「すみません、分からないです……」
「そうですか、こちらこそすみません」
「いえいえ、お役に立てず申し訳ないです」


去れ。早く去れ。
わたしの目の前から、早くいなくなって。
レジ袋の持ち手を握った手にどんどん力がこもっていく。


そんな願いは届かず、警察官は持っていたチラシをわたしに差し出す。


「これ、もし見かけたら連絡ください。大量殺人を犯して指名手配されていて」


どうも、なんてよそ行きの笑顔を浮かべながらそのチラシを受け取った。
それを今すぐ破ってやろうかと思った。


「それでは失礼します。ご協力ありがとうございました」


軽く会釈をして警察官が去って行く。
握りしめた拳は血管が浮き出るほどだった。


まずい。非常にまずい。
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