濁った僕を抱きしめて
マスカラとアイラインの黒と、アイシャドウのラメが服の袖につく。
これ拓海くんが買ってくれた服だ。
汚しちゃったな。


拓海くんなら謝れば許してくれるか。


立ち上がって足についた砂を払った。
皮がむけたのか膝から血が出ている。


転んだ拍子に肘もぶつけたのか、肘からもたらりと血が出ていた。


何も気にせず走り出す。
巻いていた髪の巻きもとれて、ただ邪魔でしかない。
肩にかけていた鞄を手でがしっと掴んだ。


家が遠くに見える。
その時パトカーのサイレンが聞こえた。


家に向かっていたらどうしよう。
わたしが間に合わないまま拓海くんが連れて行かれたらどうしよう。


そう思うとより足の動きが速くなった。


足はあんまり速くないし、体力だってない。
長く走ると脇腹の辺りが痛くなるのに、今は全くそれに気づかない。


火事場の馬鹿力、ってこういうことを言うんじゃないだろうか。
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