濁った僕を抱きしめて
偶然か必然か、一番奥の四号室の鍵は開いていた。


急いで中に入り、鍵を閉める。
そこら辺にあった家具をドアの前に置いて、警察が入らないようにした。


ここを出て行ったのは二ヶ月ほど前のはずなのに、残る温もりは消えていなかった。


拓海くんはいないのに、拓海くんの何かがここに残っている気がする。


右手に持っていた銃とナイフを見た。


どちらにも血の汚れがこびり付いたまま取れなくなっている。
ナイフを床に置いて、わたしは銃を胸に抱えた。


ドンドンドン、とドアを叩いてくる音がする。


久しぶりのこの家に浸っていたというのに、台無しにされた。
苛立ってガラス窓に向かって引き金を引いた。


銃声と共にガラス窓が割れていく。


拓海くんはガラスみたいだと思った。


透き通ってしまいそうに綺麗で、儚さと強さを兼ね備えていて。
でもどこか脆くて、壊れてしまいそうで。


名前の通り、拓海くんは海みたいだった。
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