濁った僕を抱きしめて
ーーどうか、わたしを否定しないで。


そんな願いは、いつも淡く消えてゆく。


瞳からなにか溢れそうだ。
あつくて、わたしの力では止められない。


それをこぼしたくなくて、また膝に顔を埋めた。


視界は焦げ茶色の地面でいっぱいで、耳から入ってくる音は雨に埋め尽くされている。


それでも、ひとつの足音だけは耳に届いた。


有り触れた音の中で、そのひとつの音だけこちらに向かってくる。


思わず、顔を上げた。


「……君、大丈夫?」


傘を刺しているから、顔がよく見えない。
声的に男性。綺麗な声。
背もきっとかなり高い。


「ねー、聞いてるんだけど」


急にしゃがんで視線を合わせてくる。


ーー綺麗な、顔。


一瞬女の人かと思ったほどに綺麗な顔をしていた。
大きい瞳。高い鼻。怪しげに上がった口角。


普通こういう人に話しかけられても無視や断りを決め込むべきなんだろうけど、この顔面になら何をされてもいいような気がした。
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