濁った僕を抱きしめて
「そうです、毎日うんざりしっぱなしですよ」



口ではそう言ったが、それほどうんざりすることは無かった。


母親は男の家に入り浸り、父は仕事で海外にいる。


必然的に一人でいることの方が多かった。


「……そう言えばさっき、付き合ってるって」
「あー、ごめん。咄嗟に嘘ついた。嫌だったろ」


そう言って拓海くんは立ち上がり、冷蔵庫からビールを出す。


「……嫌じゃない、って言ったら、どうしますか」


ビールを開けようとした拓海くんの動きが止まる。


面倒臭いことを言っているのは分かっている。
いま私が言おうとしていることは、きっとどちらの得にもならないものだ。


最悪の場合、この状況を変えてしまうかもしれない。


「何、お世辞?笑わせようとしてくれてんの」
「本気ですよ」


お互い何も言わず、ただ目と目が合う。


「……拓海くん」


ーー好き、です。


そう言おうとした言葉は、無機質な機械音によって遮られた。
< 49 / 241 >

この作品をシェア

pagetop