濁った僕を抱きしめて
その機械音と、後に流れた音声がお風呂が沸いたことを告げた。


「わたし、お風呂入ってきます。ごちそうさまでした」


お皿をまとめて流しに置き、近くに置いておいたパジャマ類を手に取る。


リビングから洗面所まではそれほど遠くない。
なのに、今日はいつもの何倍もある気がした。


パジャマ類を床に投げ、自棄糞(やけくそ)のように服を脱ぐ。
音を立てて風呂場の扉を開けた。


八月だと言うのに、風呂場はなんだか寒い。


早くこの寒さを消し去りたくて、ちゃぷんと大きな音を立てて湯船に浸かった。


ゆらゆらと水面は揺れている。


わたしの心も同じように揺れ動いている。
何度も言うシミュレーションはしていたのに、いざ本人を目の前にすると上手くいかない。


手でお湯をすくって、顔に勢いよくかけた。


水面は変わらず、ゆらゆらと揺れている。
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