濁った僕を抱きしめて


4


「昨日の夜、何してたんですか?」


やっぱり、か。


薄々気づいていた。


昨日の夜、携帯を落としたのは璃恋なのではないか。
そして、俺が仕事をしているところも見られたのではないかと。


「……なんで?」


こんなことを言ってもどうにもならない。
ただすべてを言うまでの時間を引き延ばしているだけだ。


「見たんです、わたし。拓海くんが、人を……」


璃恋が口ごもる。
さぁ、俺はどこから話そうか。
昨日の夜のことから?
それとも、俺の人生の最初から?


「そうだよ。俺、人殺しなんだ」


持っていた箸を揃えて置いた。
コップの中に入った、茶色の苦い液体を飲み干す。
苦みが喉に引っかかる。


「なんで、人を殺すんですか。それに、仕事って」
「人を殺すのが仕事だよ。俺の」


自慢げに言った。
俺はこれしか能がない。
俺からこの仕事を奪ったら、きっと何も残らない。
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