濁った僕を抱きしめて
手を引いて路地裏に連れ込み、女に向き直る。


「なんですか、話って」


何も言わずに女の身体を引き寄せる。
抱きしめるような形になった後、俺はポケットに入れていた手を出した。
その手には、


ーー銃が握られている。


激しい銃声が響いた後、女の身体は重力を失ったようにぐらりと傾く。
俺は銃をまたポケットに戻した。


「おい、お前!!」


店の方向から声がする。
誰かが走ってくる。誰かと思えば、その女を嫌って死んでほしいとまで言っていた同僚だった。


「……まさか、これ、お前が?」


だらりと力が抜けた腕を取る。
俺は今、どんな顔をして立っているのだろうか。


「うん、そうだよ。俺が殺った」


目の前の男はがたがたと身体を震わせ、言葉になっていない叫び声を上げるとどこかに走って行った。


どうして、だろう。
喜びもせず、感謝もせず、あいつは去って行った。


あいつが言ったから、俺は死ぬ覚悟でやったのに。
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