濁った僕を抱きしめて
少ししたら、パトカーのサイレンがどんどん近づいてくるのが聞こえた。
自分で終わりにしようとしたなのに、まだ死にたくないと思った。


だから逃げた。
逃げた先でまた、人を殺した。


どうせなら、ことごとくクズになって死んでやろう。そう思った。


この家も、人を殺して手に入れたものだ。
持ち主がどこの誰かなんて、俺には知るよしもない。


いつしか、人を殺すことに躊躇がなくなった。
人から依頼を受け、金を受け取って仕事にするようになった。


愛とか恋とか、そんな綺麗な物とはまるっきり縁がない。
自分でそれを手繰り寄せようとも思わないし、この薄汚い人生でも俺はいい。


ーー寂しい。


これでいい。割り切ったはずなのに、どこか寂しかった。





仕事を始めて数年が経った頃、一つの依頼を受けた。


「とある男を殺せ。借金を返さず、それどころか借金を増やしている男だ」


標的と出会ったとき、俺は息をのんだ。


「あれ、たくみぃ?」


ふわふわとした喋り方と足取り。
酔っているのだろうか、顔が赤い。
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