濁った僕を抱きしめて
「おぉい、忘れたのかぁ?父さんだぞ、父さん」
忘れるわけがない。忘れたくても、忘れられない。
気持ち悪い喋り方、ヤニがついた黄色い歯。
女に囲まれ、デレデレしながら鼻の下を伸ばす仕草。
父親のすべてが気持ち悪く見えて仕方なかった。
……まぁ、俺も人のことをとやかく言える分際じゃないけれど。
「忘れてないよ、父さん」
隠した銃から手を離し、父親の隣に並ぶ。
少しくらい、話してみようか。
「どうだ、最近は。仕事は何してるんだ」
ーーお前を殺すことが仕事だよ。
なんて、口が裂けても言えないけれど。
「それなりにやってるよ。まぁまぁ楽しいし」
「そうか。あれだ、彼女とかはどうだ」
出会って数分、急にそんな話を切り出してくるもんだから笑える。
親とはいえど、もう何十年と会っていなかったのに。
「……今はいいかな、彼女とか。仕事が楽しいし」
半分嘘で、半分本当。
彼女がいらない、というのは本当。