濁った僕を抱きしめて
手は繋いだまま。


わたしに傘を持たせて、着いてきてと言わんばかりの大股で歩き出す彼。
背が高い上に大股なんて、歩くのが早いったらありゃしない。


「あの、もうちょっとゆっくり歩いてくれません?」
「悪いけど急いでんの」


緩まるどころかどんどん早くなっていくスピード。
大きく息を吐いて、傘を握る手に力を込めた。


路地裏に入り、くねくねと曲がっていく。
わたし今、家に向かってるんだよね?
この人、どんなところに住んでんだろ。


そう思ってしまうほど何度も曲がる。
というかこんな路地裏に家なんかあるのだろうか。


もう少し歩くと、さっきよりは開けた場所に出た。
引っ張られるまま向かった先には一軒の古びたアパート。


「到着。ここの4号室、一番向こうね。俺ちょっとやらなきゃいけないことあるから、先入ってて」


チャリン、という音と共に鍵が手渡される。
わたしの手から傘を奪うと、代わりに鞄を握らせた。


階段を音を立てて登りながら、どこかに向かって歩いていく彼の後ろ姿を視界に捉える。


あの人、どこに行くんだろう。
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