凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

「見苦しくなんてない。むしろ……」
(……むしろ?)

 より強い否定の言葉が続く気がして、ルーリアは顔を強張らせたままカルロスをじっと見つめる。

「……気にするな」

 カルロスは気まずそうに頬をかいてから、ルーリアの眼差しから逃げるように背を向ける。そこへ準備を終えてやって来たエリンが、カルロスを見て微笑ましげに目を細め、こっそりと話しかけた。

「あらあらカルロス坊ちゃんたら、また照れちゃって」
「やめろ。照れてない」
「わかりますよ。奥様、とても可愛らしいですものね」

 ルーリアにはふたりの会話が聞こえておらず、カルロスの背中しか見えていない。不安そうにしていると、気付いたエリンが素早く側までやってきて、「さあ行きましょう!」とルーリアの手を取り足取り軽く歩き出した。

 カルロスを先頭に三人は屋敷から出て、門の外で待たせていた馬車に乗り込む。
 窓から、店先に立って客を呼び込んでいる活気ある姿や、ベンチに座って談笑している女性たちの楽しそうな姿など、そこに流れている馴染みのない日常をルーリアは興味深く見つめた。
 それほど走らず馬車は停止し、ルーリアはソワソワしながら外へと降りた。
 通りは多くの人が行き交っていて、それらの視線をカルロスが一気に集めている。尊敬や憧れだけでなく、恐れを抱いたような視線まで様々ではあるが、カルロスの知名度の高さを知るには十分である。

「ルーリア、こっちだ」

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