凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
深く頭を下げてきたセレットに、ルーリアが「頭をあげてください」と慌てる。すると、セレットは勢いよく顔をあげ、困惑げに眉を顰めた。
「待てよ……ルーリア・バスカイル。その名をどこかで耳にした様な気がするな。お嬢ちゃん、これまで精霊と関わりをもったことは?」
「黒精霊から祝福を受けたことと、それ以来黒精霊を呼び寄せていることくらいですけど」
突然の質問にルーリアがはっきりとそう答えると、記憶を掘り返すようにしてカルロスが訂正を入れる。
「いや、違うだろ。アズターから黒精霊から祝福を受ける前に、別の精霊からも祝福を受けていると聞いている」
「……え? それは私は知りません。初めて聞きました」
ルーリアとカルロスは面食らった顔で見つめ合った後、カルロスが「ああそうだった」と思い出し、補足する。
「ルーリアの母さんが独りでいた時に精霊から祝福を受け、その後すぐに出産となってしまったから、伯父夫婦には伝えていないとも言っていたっけ。黒精霊からの祝福で、最初の祝福も無かったことにされてしまったとアズターは悔しがっていた」
「馬鹿、そんな訳あるはずなかろう!」
セレットは強い口調でぴしゃりと言い放つと、決意を固めるように大きく頷いた。
「一度精霊の住む場所へと帰ることにする。すぐに戻るが、ルーリアさん、その間、儂の大切な庭を頼めるか?」
庭いじりなどした事のないルーリアは怯み、顔を強張らせる。思わずカルロスとレイモンドへ助けを求める様に視線を向けると、温かな眼差しや笑顔を返され、自分はひとりではないという気持ちが芽生えた。
「……はっ、はい、精一杯頑張ります!」
少しだけ声を上擦らせながらルーリアが引き受けると、セレットはにっこりと笑ってその場からパッと姿を消した。