凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
「久しぶりだし、私と一曲踊ってくださいな」
「すみません。俺は招待客ではなく騎士団員としてこの場にいるので、遠慮させていただきます」
キッパリとカルロスが断ると、女性は「そう……よね。ごめんなさい」と引き攣った笑みを浮かべた。そして女性はまだ話を続けたいように視線を向けるが、カルロスは興味なさげに早々に視線を会場内に戻した。そのため、女性は諦めきれなさそうにしつつも、ゆっくりとカルロスの前を離れていく。
「部隊長、今の女性のことをちゃんと思い出せていましたか? ……って、今の女性だけじゃないですよね。その前に声をかけてきた人に対しても、お前誰だって顔をしていましたよ」
隣のケントに苦笑いで指摘され、カルロスは思わず動きを止めた後、わずかに肩を竦めてみせた。
実は本日、ダンスに誘われるのが先ほどの女性で五人目なのである。
「この黒の騎士団服が見えていないのか?」
「仕事中だとわかっても、カルロス部隊長の気を引きたいんでしょうね。先ほどの女性もお綺麗な方だったのに、カルロス部隊長はどんな女性なら興味を持つんですか?」
ケントの言葉を聞いて、カルロスは先ほど自分の目の前に来た女性の顔を思い出そうとした。しかしうまくいかず、思わずため息がこぼれた。
(……興味が持てない)
来客の女性たちに改めて目を向けても、パーティーの景色の一部にしかカルロスには見えず、心も動かない。
そこに他の騎士団員がやってきて、ケントが「外の見回りに行ってきます」とカルロスに告げて、その場を離れた。