凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
 とてもじゃないが感謝の気持ちを持てるはずもなく、ルーリアは気持ちを抑えきれず、距離を置くように両手でアメリアを押しやった。

(両親との時間も思い出も、周りからの愛情も、将来の期待も、アメリアはたくさんの物を持っているのに、どうして私からすべてを奪おうとするの?)

 理不尽さへの怒りは喉に詰まって言葉にできない。しかし、今まで我慢していたものが一気に爆発してしまったかのように、ルーリアの感情は一気に昂っていった。
 目から大粒の涙が流れ落ちるのを見られたくなくてアメリアから顔を背けた瞬間、ぴしっと亀裂音が響き、髪飾りが熱を帯びたのをルーリアは感じ取る。一方で、亀裂が入ったことで青かった魔法石の色に黒が混じったのをアメリアは目にして、伯父の魔力による結界の効果が失われたかもと、顔に焦りが浮かんだ。
 込み上げてくる怒りや苛立ちに翻弄されかけたが、自分の中で暴走しかけている光の魔力の渦を感じ取った瞬間、このままでは大変なことになるとルーリアは我にかえる。
 しかし時すでに遅く、ルーリアの光の魔力に反応するように廊下の隅から滲み出てきた黒い影が、ルーリアの腕や足にまとわりつく。

「闇の魔力」

 それを見て引き攣った声を上げたアメリアへと、新たに這い出てきた影が狙いを定めたように向かっていく。アメリアは小さな盾くらいの大きさの光の結界を張ってなんとか影を跳ね返してから、ルーリアをチラリと見た。
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