凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
 ルーリアはアメリアと同じように光の魔力で対抗しているものの、すでに腕にまとわりつかれているためか思うようにいかない。
 アメリアにはルーリアを助ける気などさらさらなく、冷めた目を向けるのみで、自分に向かってくる影を防ぎながら、さりげなく後退していった。
 先ほどよりも人々が大広間から廊下に出てきているようで、闇の魔力に悲鳴をあげたり怯えたりする声が聞こえてくる。

(騒ぎが大きくなる前に、なんとかしてここから逃げなくちゃ)

 どんどん増えていく影と徐々に動きが封じられていくことにルーリアは焦り、このまま自分は影に飲み込まれてしまうのではと怖くもなる。
 どこからかぶつぶつと何かを唱える低い声が聞こえた次の瞬間、紐でぎゅっと縛られたかのようにルーリアの腕を影がきつく締め付けた。そして、開け放たれている窓に向かって腕を引っ張られ、ルーリアの足がずるずると動き出す。
 転落させられるのではとルーリアが恐怖で青ざめた時、鎖が揺れた音が小さく響き、気がつけば、窓の向こうに黒精霊が浮かんでいた。
 黒精霊の美しくも虚ろな眼差しと視線が繋がったようにルーリアが感じると同時に、黒精霊は足から下げた鎖をじゃらりと揺らして、何か言葉を発しながらルーリアに向かって手を伸ばした。
 濃い影を纏わせたその手に人々から悲鳴が上がる。もちろんルーリアにとってもその手に触れられることは恐怖でしかないが、影に囚われているため逃げられない。

(もう逃げられない)

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