凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
 恐れの中に諦めと絶望が顔を出し、ルーリアの目に涙が浮かんだ瞬間、鋭い声音が飛んできた。

「動くな」

 言葉に従い、咄嗟にルーリアが体を強張らせた瞬間、目の前を光が走った。
 黒精霊は機敏に後退し、一瞬で姿を消した。ルーリアは息を荒げながら、歩み寄ってくる足音を耳にし、反射的にそちらへと顔を向ける。

(カルロス様)

 助けてくれたのは彼で間違いない。感謝の気持ちは抱いたものの、殺気を漂わせている上に、先ほど見た時よりもさらに冷酷な面持ちで近づいてくるカルロスに、ルーリアは恐怖を覚え、足を竦ませる。
 彼はルーリアの目の前で足を止めると同時に、持っていた剣でルーリアの腕や足に絡みついている影をいとも簡単に薙ぎ払った。
 締め上げる力から解放された途端、緊張の糸まで切れてしまったかのようにルーリアはその場にぺたりとくずれ落ちた。

(……すごい)

 一般的に闇の魔力への対抗手段は光の魔力が有効的だとされているが、そんな光の魔力をもってしても防御したり弾き飛ばしたりするので精一杯なのが現状である。
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