凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
「……娘がまた迷惑をかけた」
「いえ。仕事ですから」
先ほども聞いたような言葉のやり取りが交わされた後、少しの沈黙を挟み、アズターが固い声音で続ける。
「君は闇の魔力だろうと、ものともとせず打ち破ると聞いていたが、実際目にすると圧巻だな」
「お褒めいただき光栄です」
「本当にその通りだわ! カルロス様、とっても素敵だった!」
カルロスが無感情で返事をすると、すかさずアメリアも興奮気味に話に割って入っていく。
アメリアの熱意と勢いにカルロスが眉を顰めたその傍で、アズターがルーリアへと静かに歩み寄った。
「ルーリア、すまない。兄さんが宰相との話に夢中になっているうちに出よう」
小声で囁き掛けられ、ルーリアは小さく頷き返すと、差し出された手を取って立ち上がる。
そのままアズターに腕を引かれて歩き出したが、「お父様、ちょっとだけ」と足を止め、ルーリアはカルロスへと体を向けた。
「あのっ、カルロス様……ありがとうございました」
か細い声で呼びかけてから、ルーリアは膝を折って丁寧にお辞儀をする。
(あなたに会えて良かった。どうかお元気で、さようなら)
顔を上げた後、ほんの数秒、カルロスと視線を通わせたあと、ルーリアは身を翻し、アズターと共に歩き出した。
「カルロス様、私たちも大広間に戻りましょう」
アメリアはさりげなくカルロスの腕に自分の腕を絡めつつ、甘えるように誘いの言葉をかけた。
しかし、カルロスは無言のままじっとルーリアの後ろ姿を見つめ続けている。視線すら寄越してもらえず、アメリアは自分の存在を無視されたような気持ちになる。
アメリアは悔しそうに唇を噛んだ後、怒りをぶつけるかのようにどんどん遠ざかっていくルーリアを睨みつけた。