凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
二章、真夜中の再会
王妃の誕生日のお祝いから一ヶ月が経った。
すぐに城を出るようにとの言いつけを守らず、黒精霊と接触までしてしまったルーリアは、ディベルにひどく怒られ、これまでの倍の数の魔法薬の生成と一日一回の食事を強いられることとなった。
きっとそのような罰は受けることになるだろうと予想していたルーリアは、落胆する様子なくすべてを受け入れた。
疲労も空腹も我慢して淡々と毎日を過ごしていけば、いつかきっとこれまでと変わらぬ日常へ戻っていく。
そんな希望を胸に抱いていたのだが、うまくはいかなかった。
「いやああっ!」
明け方、ルーリアは自らの叫び声と共に目を覚ました。
呼吸を乱しつつ、ゆっくりと体を起こし、辺りを見回した後、見慣れた粗末な小屋の中に闇の魔力の気配がないことにホッとし、額に滲んでいる冷や汗を手で拭った。
そして、あまり間を置くことなく、体の中で昂り始めた魔力を感じ取ると、ふらつきながらベッドを降り、調合台へと歩き出す。
(悪夢にうなされるのは、これで何度目だろうか)
毎晩のように、城で会ったあの美しい黒精霊が手を伸ばして迫ってくる夢をみては、目覚めた後、決まって魔力が暴走しそうになるのだ。
実際、魔力を抑え切れず、小屋の扉の外に施してある結界の役目をしている魔法石を破壊してしまい、黒精霊を呼び寄せてしまったことが三回ほどあった。
ディベルとクロエラとアズター、そして光の魔力を扱える屋敷の者たち数人がかりで、ようやく黒精霊を追い払うことができたのだ。
しかし、人々の体力の消耗が激しく、新たな結界を施すことも手間とお金がかかるため、ルーリアはディベルから「これ以上繰り返すなよ」と厳しく言われたのだ。