凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
調合台に辿り着く前にルーリアは眩暈に襲われてふらりとよろけたあと、頭を押さえた。
昨晩も遅くまで魔法薬を作り続けて、魔力を搾り尽くしたと思っていたのに、まだまだ際限なく溢れ出てきそうになる。けれど疲労感はしっかり残っているため、体がついていかず足元がおぼつかない。
不意に、微かにではあるが嫌な気配を感じ、ルーリアは小屋の中を見回す。しかし、室内はディベルが施した結界により、光の魔力に満ちていて、なんらおかしい所はない。
ルーリアは視線を机へと移動させ、その上に置かれてある先日身につけた青い魔法石の髪飾りをぼんやりと見つめた。
魔法石は高級な品だったらしく、パーティーの後はクロエラの、もしくはアメリアの物になる予定だった。しかし、ひびが入ってしまったことで、装飾品としての価値が下がってしまったため、ふたりとも「要らない」という意見で一致したのだ。
とはいえ、魔法石に込めた魔力は健在なため、その効果が薄れるまでルーリアの部屋に置いておくことになったのだ。
「……お母様のネックレスのこと、謝りたい」
魔法石の髪飾りを目にする度、アメリアによって城の窓から放り投げられてしまった母親のネックレスを思い出す。
あの後、ルーリアはすぐにアズターと城を出てしまったため、ネックレスがどうなったのかはわからない。アメリアが庭に出てネックレスを探し出してくれていたら良いが、そのまま放置している可能性の方が高いと考えた。
どちらにせよ、無くなったのは自分のせいになっているだろうと一気に心が苦しくなり、悲しみや憤りでいっぱいになっていった。
感情に追随するように、体の中でルーリアを翻弄するように魔力が大きく揺らめく。焦りと共に歯を食いしばった時、戸口の方からぱりんと割れる音が微かに聞こえ、ルーリアはやってしまったと数秒目を瞑ったあと、急ぎ足で調合台へと向かった。