凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
己の力を魔法薬へとふんだんに流し込み、一心不乱に生成し続けると、ようやく魔力が落ち着きをみせ始める。
ルーリアがホッとしたのも束の間、小屋の外から黒精霊の気配を感じて、顔を強張らせた。
(どうしよう)
このまま対面してしまったら、黒精霊の闇の魔力に自分の中に植え付けられたそれが反応し、大変なことになる。
逃げなくてはと思っても、黒精霊の気配は戸口のすぐ近くから感じられ、小屋の出入り口はそこのみだ。
足が動かない上に、戸口から目を逸せなくなっていると、ふわりと黒い影を漂わせながら、男の黒精霊が姿を現した。黒精霊はルーリアに対して何か訴えかけるかのように手を伸ばし、ゆっくり近づいてくる。
ルーリアが小さな叫び声を上げた時、小屋に駆け寄ってくる力強い足音が聞こえてきた。次の瞬間、小屋の中が光の魔力で満たされ、黒精霊は弾かれるように後ろへと吹き飛び、姿を消した。
「ひとまず大丈夫だ」
黒精霊に変わって小屋の中へと入ってきたのはアズターで、その手に割れてしまった魔法石があるのを見て取る。状況から割れた魔法石を新しい物と交換してくれたのだと判断でき、ルーリアは脱力するようにその場にぺたりと座り込んだ。
「お父様、ごめんなさい。また伯父様を怒らせてしまうわ」
自分の失態は、間違いなく父親にまで迷惑をかけていることだろう。それが分かっているからこそ、気落ちし顔を俯かせたルーリアへ、アズターが真っ直ぐ歩み寄ってきた。
「ルーリア、少し話があるのだが……」