凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

 アズターからそんなことを言われたのは初めてで、ルーリアは驚きや戸惑いと共に恐る恐る視線を向ける。そして、苦々しく自分を見つめてくるアズターに不安を煽られながら、震える声で問いかけた。

「……は、はい。お父様、なんでしょう?」
「実は、お前を嫁に出そうと考えている」
「わ、私を、お嫁に?」

 まさかそんな話だとは思っておらず、ルーリアはきょとんとするが、アズターは少しも表情を和らげない。

「まだ決まった訳じゃないが、上手くいけば……」

 そこでアズターは、小屋に歩み寄ってくる数人の足音に気付き、言葉を途切らせた。諦めの小さなため息をこぼしてから姿勢を正し、ルーリアと少しばかり距離を取る。
 小屋の外から魔力の揺らぎが何度か伝わって来たあと、まだ残っていた黒精霊の気配も消え失せ、そして、ルーリアの前にディベルとクロエラとアメリアの三人が姿を現した。

「また黒精霊を呼び寄せおって」

 小屋に入って来るなりディベルが疲労感を交えながらぼやき、続けてルーリアを睨みつけた。

「これ以上魔法石を破壊するなとあれほど言ったのに、どうしてこうなる! 自分の魔力くらい制御しろ!」
「申し訳ありません」

 怒鳴りつけられたルーリアはふらつきながらもなんとか立ち上がり、深く頭を下げる。
 頭を下げ続けるルーリアにディベルは舌打ちすると、アズターの手から割れた魔法石を奪い取り、「アズターも来い」と命じて小屋を出て行った。
 アズターはちらりとルーリアに目を向けつつも、すぐに「はい」と返事をし、ディベルを追いかけるように歩き出した。
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