凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
 残ったクロエラは頭を下げたままのルーリアを冷たく一瞥してから、部屋の隅に移動し、積み重なっている魔法薬入りの箱の数を数え始めた。アメリアは小屋の中を見回してから、顔を顰める。

「相変わらず陰気臭い場所」

 ぽつりと呟かれた言葉にぴくりと反応し、ルーリアはゆっくりと顔を上げる。確かに日当たりの悪い場所に建てられているため、小屋の中は薄暗い。充満している薬草の匂いも、アメリアにそう思わせる一因となっていることだろう。
 しかし、ここはルーリアにとって大切な場所であり、そのように言われてしまうと心がちくりと傷む。

「こんな場所で生活できるお姉様も似たようなものだけど」

(私はなんて言われても平気。気にしない)

 感情を荒立てて、再び魔力が暴走しかけることだけは絶対に避けなくちゃいけないと、ルーリアはアメリアから気を逸らすように顔を俯け、ふたりの邪魔にならないようにと静かに部屋の隅へ下がっていった。
 すると、ルーリアが反応しないことがつまらなかったようで、アメリアは膨れっ面になる。

「こんな面白みのない子が良いだなんて、ルイス様って実は物好きなのね。感じが良さそうで好青年の印象だったのに驚きだわ」
「本当だよ。アメリアに縁談の話を持ちかけるならまだしも、ルーリアにだなんて。何か手違いがあったとしか考えられないわ」

 小馬鹿にした様子でやり取りされた会話を聞き、ルーリアはわずかに眉根を寄せる。

(ルイス様って、もしかしてパーティーでお会いした方? しかも縁談だなんて、私でも信じられない)

 ルイス・ギードリッヒとは少しだけしか話していない上に、ルーリアは彼の手を払って逃げ出してしまっている。不愉快に思われはしても、気に入られるような所は全くなかったはずである。

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