結婚相手を見つけるため秘書官を辞めたいです 〜なのに腹黒王子が「好きだ」なんて言って邪魔してくるのですが!?〜
行くなって……それほどフレッド殿下に会ってほしくないっていうこと?
普段の殿下なら、意地悪をして私の仕事を増やすなり強制的に命令するなりして、なんとか実家に帰れないように邪魔してきたはず。
こんなに懇願するように何かを言われるのは初めてだ。
どうしよう……どうしたらいいの?
「ジョシュア殿下……」
なんて答えていいのかわからず小さく名前を呼んだとき、ジョシュア殿下が抱きしめる腕を弱めて私から離れた。
弱々しい黄金の瞳が、私と目が合うなり柔らかく細められる。
「冗談だ」
「……え?」
「ただセアラをからかっただけだよ」
フッと笑った殿下の顔は、私には泣きそうな笑顔に見えた。
今まで、私が「冗談ですよね!?」と言っても「冗談じゃない」としか返さなかったジョシュア殿下。
その殿下が、自分から冗談だと言うなんて。
そんなの、余計にウソっぽいよ……。
「気をつけて行ってきてね」
そう言って、ジョシュア殿下は私の肩をポンと軽く叩いてから出ていった。
部屋に取り残された私の頭の中には、さっき見た切なそうな殿下の顔がずっと離れずにいた。