結婚相手を見つけるため秘書官を辞めたいです 〜なのに腹黒王子が「好きだ」なんて言って邪魔してくるのですが!?〜

「ジョシュア殿下。朝食はお部屋で召し上がりますか?」

「……ああ」


 乳母の手が離れてからずっと俺の世話をしてきた執事、オリバーが静かに問いかけてくる。
 俺はベッドから降りることもせず、ボーーッと窓から見える空を見ていた。



 この部屋から出なくなって、もう1週間か……。



 笑顔が作れなくなった俺は、高熱が出たとウソをついて部屋に閉じこもった。
 本当のことを知っているのは、執事のオリバーと父、姉の3人だけだ。俺の完璧王子ぶりが演技だと知っている3人でもある。

 そのため、今はメイドも部屋には入れず、オリバーが1人で俺の面倒を見てくれている。


「お待たせしました」


 用意された朝食をもそもそと少しずつ食べる。
 笑顔が作れなくなってから、その他のことに関しても何もやる気がおきない。



 ああ……こんな姿の俺を見たら、今まで俺を褒めていた者たちはどんな顔をするだろう……。



 回復したあとに変な噂が流されないよう、今の俺の状態は慎重に隠されている。
 正直、本当にまた笑顔を作れるようになるのか見当もつかない。



 このまま笑顔を作れなくなったら、どうなるんだ?
 自分勝手で周りを見下しているような本当の俺は、家族以外の誰にも受け入れてもらえないだろう。
 偽の自分を演じられなくなったら、俺には存在意義がない。


< 259 / 318 >

この作品をシェア

pagetop