結婚相手を見つけるため秘書官を辞めたいです 〜なのに腹黒王子が「好きだ」なんて言って邪魔してくるのですが!?〜
当時の俺は、その女の子が誰なのかわかっていなかった。
俺が名前を聞かない代わりに、むこうも俺に何も聞いてこない。
それがちょうどよかった。
「お前の菓子は甘いから嫌いだ」
「舌がバカなんだろ」
そんな言葉を投げかけても、セアラはムッと口を尖らせるだけで俺のそばを離れたりはしなかった。
性格の悪い本当の俺の言葉を聞いて、離れるどころかこれからのことを考えてくれる──そんな変な女だった。
「お前ってほんと変なヤツ」
「君に言われたくないよ」
「怒りながらも、次は甘くないお菓子を持ってくるって……なんでそんな発想になるのか理解できない」
正直な感想を伝えると、セアラは紫色の瞳をパチッと丸くして首を傾げた。
「どうして? だって美味しいと思ってもらえるものを食べてほしいじゃない」
「…………」
愛想笑いすらしないこんな俺に対しても、そんな風に思ってくれるんだと驚いた。
この子の前ではウソの自分を作らなくていい。
本当の俺と、仲良くしようとしてくれている。
それがすごく嬉しかった。
「私はこれからも君とお菓子を食べたいよ」
ニコッと優しく微笑んだその笑顔を見て、俺は無性に顔が熱くなった。
きっとこの黒くてボサボサの髪で見えていないと思うけど、少しだけうつむいて赤い顔が見られないようにする。
「……そうかよ」
「次は甘くないお菓子を持ってくるから、一緒に食べようね」
「……ああ」