結婚相手を見つけるため秘書官を辞めたいです 〜なのに腹黒王子が「好きだ」なんて言って邪魔してくるのですが!?〜

 女学園を卒業して、セアラが王宮にやってきた日のことはよく覚えている。

 大勢の国民の前に立つときよりも、他国の王様に会うときよりも、たった1人の女性に会うこの日のほうが緊張していた。
 
 セアラは俺があの少年だとは知らないだろう。
 黄金の瞳も見えないようにしていたし、髪の色だって黒かった。

 きっと俺のことは噂通りに優しく爽やかな王子だと思っているはずだ。


 
 ……だが、セアラの前で爽やか王子を演じるつもりはない。



 俺が本性を見せたら驚くだろう。
 幻滅するかもしれない。嫌われるかもしれない。

 でも、セアラには本当の俺を見てほしい。知ってほしい。
 こんな俺を受け入れてほしい。



 
 セアラの待つ部屋に入ると、秘書官の制服を着たセアラが姿勢良く立っていた。
 俺を見て慌てて頭を下げている。


「セアラ・バークリーと申します」

「ああ。よろしくね。セアラ秘書官」


 最初は笑顔で挨拶を交わし、2人で話したいからと言って使用人たちを部屋から追い出す。
 緊張しつつも微笑んでいるセアラに向かって、俺はニコッと笑いかけた。


「やっと会えて嬉しいよ」

「えっ」


 セアラの頬が赤く染まり、綺麗な紫色の瞳が俺を見つめる。
 そんなセアラに鼓動を乱されたが、なんとか顔には出さないように平静を装って見つめ返す。

< 277 / 318 >

この作品をシェア

pagetop