結婚相手を見つけるため秘書官を辞めたいです 〜なのに腹黒王子が「好きだ」なんて言って邪魔してくるのですが!?〜
 カール子爵から視線を外さないまま、ジョシュア殿下が左の指でコンコンと小さく机を叩いた。
 何も知らなければただの動作だと思われるその行動には、隠された意味がある。


 
 あの合図は……!


 
 私は自分の目の前に座るトユン事務官をチラッと見た。
 同じタイミングでこちらを見ていた事務官と目が合い、周りに気づかれないくらいの最小限の動きでお互いコクッと頷く。


 
 トユン事務官……出番です!


 
 カール子爵の話がまだ続いている中、トユン事務官がコホンと軽く咳払いをして席を立った。
 
 その瞬間、会議室の空気がピリッと凍りつく。

 会議に参加していた人たちは不安そうにトユン事務官を見上げ、陽気だったカール子爵もピタリと話すのをやめた。


 
 ……まぁ、こんな空気になるわよね。


 
 温厚なトユン事務官が立ち上がっただけで、怯え出す人たち。
 なぜなら──
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