結婚相手を見つけるため秘書官を辞めたいです 〜なのに腹黒王子が「好きだ」なんて言って邪魔してくるのですが!?〜
 私は殿下のペンを両手で丁寧に持ち、そっと差し出した。

 
「はい。殿下。忘れたペンとはこちらですよね?」
 
「……ありがとう。セアラ」

 
 ジョシュア殿下は何か言い返そうかと迷ったような素振りを見せた後、おとなしくペンを受け取った。


 
 あら? 話をそらせたらと思ってペンを差し出したのに、素直に受け取ってくれたわ。
「ごまかすつもりか?」くらい言われると思ったのに。


 
 拍子抜けした私を見て、ジョシュア殿下がニコッと笑う。

 
「小動物のように震えながら怯える二人の顔がおもしろかったから、今回のことは不問にするよ」
 
「…………」
「…………」

 
 
 それであっさり引いたのね。
 怖がってる部下を見て楽しむなんて、ほんっとに性格が悪いんだから。


 
 ホッとしたような呆れたような……そんな私とトユン事務官に見送られながら、ジョシュア殿下は満足そうな顔をして会議室から出ていった。
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