嘘つき、桜月。

 電話の向こうで聞こえる友哉の楽しそうな声に殺意が湧いたのは、初めてだ。


「びっくりした?」

「……してない」

「嘘つけ。思ってもないメッセージ送ってきて」

「……ちゃんと思ってるし」

「どうだか。ああ、でも、もしかしたら本当に今日、彼女できるかもなんだよね」

「……へえ」

「今度こそ祝ってくれる?」

「…………うん」

「めちゃくちゃ無理してるし」

「……そんなことないから」

「ねえ、玲奈」


 友哉は急に無言になった。


 私から話し出す気力なんてなくて、お互いに黙っている時間が続く。


「俺の彼女になってくれる?」

「……趣味の悪い嘘をつかないで」


 いくら嘘をついてもいい日でも、それを今言うのは、最低だ。


「……玲奈、時間見て」


 友哉の声が、ふざけていないことに、今気付いた。


 私は部屋にあるデジタル時計に目を向ける。


 “12:04”


 お昼を、過ぎていた。


「もう嘘をついていい時間は終わったから」


 じゃあ、友哉が今言ったのって……


「玲奈、返事聞きたい。俺と、付き合ってくれる?」


 情報量が多すぎて、私はどうすればいいのかわからなくなっていた。


「玲奈?」


 いつものように友哉に呼ばれているはずなのに、いつも通りではいられなかった。
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