【完結】先生、私と愛のために結婚して。


 咲音は、きっと必死だったはずだ。
 
 本当はずっと、心のどこかで本当の母親に会いたい。 そう思っていたのでは、ないだろうか。
 
「私……最低なことしたかな」

「いや、咲音はそんなことしてないよ。 咲音は、何も悪くない」

「先生……」

 咲音の気持ちをちゃんと分かってあげることが出来ない俺は、なんだか情けない。
 夫として、何もしてやれないことが情けない。

「咲音は、よく頑張ったよ」

「うん……ありがとう」

 咲音の辛さを分かってあげることは、俺には難しい。 でも、咲音が辛い時、悲しい時、俺がそばにいてやれることが出来る。

「咲音……ごめんな、何もしてやれなくて」

 俺の言葉に咲音は「え……?」と俺を見る。

「こうしてそばにいてやれることしか出来なくて、本当にごめん」

 俺のその言葉を聞いた咲音は、俺の頬に手を乗せる。

「違います、先生。 それだけでいいんです」

「え……?」

「そういう時にそばにいてくれるだけで、私は心が落ち着くし、安らぐから」

 咲音は、本当に優しい人だ。 こんな情けない俺でも、こんなに優しい言葉をくれるなんて。
 あの母親から産まれたとしても、咲音はちゃんと優しい人に育った。 それはきっと、両親の育て方が良かったからだと思う。
 真面目で、律儀で、礼儀正しい咲音が。
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