どうやら私、蓮くんに愛されているようです
薫子が倒れ一年、心は乱れたままだった。仕事を終え、自然に川辺へと向かう。
初めて足を運んだ日から、恵那にとってもパワースポットとなっていた。

薫子と見た夕焼けと同じオレンジ色の温かい光が、街全体を包み込んでいく。
その景色を恵那はぼんやりと眺めていた。
そしてふと、背後に人の気配を感じ振り返ると、ベンチに腰掛け、スケッチブックに何かを描く男性の姿があった。

足が自然と男性の元へ向かう。
恵那の影が男性のスケッチブックの上に落ちた。男性が手を止め、ゆっくりと顔を上げる。

男性の顔を見て、恵那は息を呑んだ。
" 透き通るような美しさ"
そんな表現がピッタリだと思った。

そのままスケッチブックに視線を移す。
恵那は再度息を呑んだ。

白と黒以外の色はない。鉛筆一本で描かれた絵にも関わらず、しっかりと夕焼けのオレンジ色を感じさせるものだったからだ。

「凄い……」

夕焼けを眺める女性の後ろ姿も描かれている。

「もしかしてこれ……」

「ごめん、勝手にあなたを描いた」

低音気味の穏やかな声が恵那の耳に快感を与える。

「ごめんなさい」

「え? どうしてあなたが謝るの?」

「夕日を描こうと思ったんでしょう? でも私が邪魔してしまった」

「邪魔なんかしてない! あっ、大きな声出してごめん」

全く大きな声ではなかったのだが、大きな声だったと慌てる姿に思わず笑みが漏れた。

「絵、上手なんですね」

「ありがとう」

「画家さんなの?」

「趣味で描いてるだけ」

「もし良かったら、そのスケッチブック見せてくれない?」

「うん、どうぞ」

男性の美しい手からスケッチブックを受け取った。
隣に腰掛け、ゆっくりと一枚ずつ捲っていく。
全て風景画で、優しさを醸し出した心温まるものだ。
人が描かれているものは恵那の後ろ姿だけだった。
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