どうやら私、蓮くんに愛されているようです
一年半前、月島薫子(つきしまかおるこ)前社長56歳が脳梗塞で倒れた。薫子は目を覚ますことなく今も植物状態で入院している。
薫子が倒れた後は、副社長が新社長に就任し現在に至っているわけだが、前社長に従順だった男が、社長に就任するや否や豹変した。我儘大炸裂だ。会社の私物化も甚だしい。
重役たちも社長の顔色を窺う始末。しかも不幸は重なるもので、ちょうど一年前、大渕紗夜子(おおぶちさやこ)が入社した。

紗夜子は恵那と同い年。小中高、大学と、同じ道を辿っている。しかも仕事先まで同じになった。

恵那はこれまで紗夜子から大切なものを奪われてきた。彼氏、バイト、卒論のテーマ、友達。

何か恨みを買うようなことでもしたのだろうかと考えては見たものの、これといって思い当たる節は見当たらなかった。
それでも人は、知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまっている場合がある。
なので、直接確かめてみようとしたこともあったのだが、自分の勝手な思い込みかもしれないし、もしそうだとしたら、新たな火種を生むことになるかもしれないと、結局胸の内に留めておくことにしたのだった。

大学を卒業後、紗夜子は、恵那が撃沈した大手化粧品会社に採用され働いていた。
もう会うこともないだろうと思っていたのに、まさか仕事まで奪われることになろうとは夢にも思っていなかった。

待遇が悪いわけでもないはずなのに、いや、高待遇のはずなのに、何故転職してきたのか? やはり、何かしらの意図を感じざるを得なかった。
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