どうやら私、蓮くんに愛されているようです
柳楽家を出た薫子は、研吾と二人、慎ましやかな生活を送っていた。生きていけるだけの収入はある。まもなく第一子を妊娠し、薫子は男の子を産んだ。親子三人の生活は笑顔に溢れ、幸せに満ちていた。

だが、その幸せな生活も長くは続かなかった。

研吾が膵臓癌を発症したのだ。見つかった時には既に手遅れの状態だった。
看病、仕事、育児と休む間もなかった薫子の身体は限界を超え、自身まで倒れてしまった。
しかも、倒れて意識を失っている間に、よちよち歩きの子供は転倒し、こたつの角で額をぶつけてしまったのだ。
尋常でない子供の鳴き声に気づいた隣人が駆けつけ、薫子と子供は病院に搬送された。
子供は、額上部に10針縫う大怪我を負った。

月島家の現状を危惧した元朗は、薫子から子供を引き離し、直人夫妻の養子にした。

「子供のことは心配するな。俺たちが愛情を持って育てる。決して寂しい思いはさせない」

「私はこの子を手放したくない。だけど、この子はきっと、私の元にいたら不幸になる。直人、この子を頼みます」

息子に怪我を負わせてしまった罪悪感に苛まれていた薫子は、自分の気持ちを無理やり押し殺し、愛する息子を手放した。
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