どうやら私、蓮くんに愛されているようです
恵那の働く化粧品会社【ルクススペイ株式会社】は、女子大生や若い女性に人気のブランド商品を販売し、支持を得ている。リーズナブルで可愛らしく、それでいてしっかりとした商品を提供することが基本理念だ。


恵那は子どもの頃から化粧に興味があった。母親のメイク道具をこっそり使って叱られたこともある。
母親曰く、道具はともかく、清水の舞台から飛び降りる思いで買った高級ブランドの化粧品を、考えなしに使ったことに怒りを覚えたのだという。
ただ、考えなしに使ったわけではない。

近所に陽毬(ひまり)ちゃんという同級生が住んでいた。内気で自分に自信がなく、いつも俯いていた陽毬に元気になってもらおうと、母親の化粧品を使ってメイクを施したのだ。薄らとファンデーションを塗り、ほんのりアイシャドウをのせる。桜色に近いリップを塗り、少しだけチークも入れてみた。
すると、今まで見たこともない表情を恵那に向けた。
その表情は花が咲き誇ったような笑顔だった。

「恵那ちゃん、これ私?」

「うん、そうだよ」

「お化粧って凄いね! 私、なんか元気が出てきたよ」

その時の陽毬の笑顔は恵那の目に焼きついている。

母親にそのことを話すと、怒っていた顔が苦笑いに変わり、「恵那、もし陽毬ちゃんにアレルギーがあったりしたら大変なことになるから、もう勝手に使っちゃダメよ。でも、笑顔になってくれて良かったわね」と、恵那の頭を優しく撫でた。

それからまもなく、陽毬は父親の仕事の都合で引っ越したのだが、きっと、素敵な女性になっているのではないかと思っている。
< 4 / 53 >

この作品をシェア

pagetop