どうやら私、蓮くんに愛されているようです
「大手ねぇ、確かに採用されたわ。この会社は不採用だったけど、何百倍もの競争を勝ち抜いて内定をもらったのよ。ようやくアンタに勝ったって思った。だけど、蓋を開けてみれば、私の仕事は雑用だった。希望したって商品開発なんてさせてもらえない。毎日毎日同じことの繰り返し。なのにアンタはどう? どれだけの商品を世に送り出した? どうして? どうしてアンタばっかり? ヒマリちゃんだって……」

陽毬ちゃん?
今、そう聞こえた。

「今、陽毬ちゃんって言った?」

「覚えてるんだ。あの子、私を捨てたのよね。いつも一緒に遊んでたのに、今日は行くとこあるからごめんって、断られるようになって、おかしいなって思ってたら、アンタのことばっかり話しだして。アンタといると凄く楽しいんだって。
たった一人の友達だったのに、いつも一緒だよって約束したのに。何にも言わずに私を避けるように引っ越したし…… 私を落として私の存在を否定したあの女が作った会社もめちゃくちゃになればいいってやってきたけど、ホント、ばっかみたい! なんなのよ……笑えばいいのよ、笑えばいい。アンタたちみんな笑えばいいのよっ!」

悲痛な声がフロア全体に響き渡った。

はぁ⁉︎ 何それ!

紗夜子のあまりにも自分勝手な理屈に怒りが湧き上がりそうになったが、必死に抑え、冷静を保ちながら思考を巡らす。

全てあの日から始まっていたのだろうか。
陽毬ちゃんに化粧をしてやったあの日から。
そんなのわからないし、私はどうすれば良かったのだろう……

でも、引っ越した理由は間違ってる。

「違うわよ。あなたを避けて引っ越したんじゃない。お父さんの仕事の都合よ。何も言わなかったのは、顔を見てしまったら別れるのが辛くなるから、そう思ったからじゃないの?」

「……のよ、なんなのよ……アンタなんて大っ嫌い」

囁くような声だった。
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