心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
マリアは着ているワンピースをぎゅっと握りしめる。
「…………マリア」
「…………え?」
「…………」
少年の目をジッと見つめながらそう呟くと、少年は驚いた顔でマリアを見つめ返した。
「……今、お前が喋ったのか……?」
マリアはコクリと頷く。
「もしかして名前を言ったのか? なんて言った?」
「…………マリア」
「マリア……」
少年に名前を呼ばれ、マリアの心がはずむ。
今まで、マリアの名前を呼んでくれたのはジュード卿とエマ、執事のキーズだけだった。
しかし、いつからかジュード卿やエマもほとんど名前を呼んでくれなくなり、「マリア様」と呼んでいたキーズも2人の死後は「聖女様」に変わっていた。