心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「呼んでみろ」
そんなマリアの気持ちも知らずに、グレイが名前を呼ぶよう要求してくる。
「なんて呼んでいいのか……わからない……です」
グレイを見つめたままそう正直に答えると、グレイは目を少しだけ大きく開いた。
そして手を口元に当てて、ブツブツと独り言を言いながら考え込む。
「なんて呼ぶか……? やはりそこはグレイ様で……いやでも血がつながっていなくても、コイツは俺の妹みたいなものだよな……? ……妹……」
家庭が崩壊し、グレイが心を閉ざす前……グレイは兄弟がほしいと思っていた。
もちろん今はそんなこと望んではいないが、なぜかその頃の気持ちが少しだけ蘇ってくる。
こちらを見つめる従順そうなマリアを横目で見たグレイは、かすかにニヤッと口角を上げた。