心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
16 笑った……
マリアは今まで感じたことのない気持ちで、その人物を見つめていた。
涙を流しながら、自分にお礼を言ってくる少年。
ありがとうって、初めて言われた……。
今までマリアは「ありがとう」と言われたことがなかった。
どんなにひどい怪我や難病を治癒しても、お礼を言われるのはいつもジュード卿やイザベラであった。
ありがとう、ありがとう……そう言われながら泣きつかれている姿を、マリアは何度も見たことがある。
「あんたは治癒するだけの道具で、治すかを判断しているのは私なのだから、私がお礼を言われるのは当然でしょ?」
マリアは何も言っていないのに、なぜか突然イザベラがそんなことを言ってきた日があった。
今まで特に気にしていなかったのだが、この言葉を聞いてマリアは『そっか。マリアは人を治す道具なんだ』と納得した。