心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 それなのに、今マリアの手を優しく握ってくれているこの人は、泣きながらお礼を言っている……マリアに向けて。

 嬉しいのか恥ずかしいのかよくわからない、くすぐったい気持ち。
 初めて感じた感情に、マリアは戸惑っていた。


「おい。いい加減、手を離せ」

「うっ……うっ……ご、ごめん……」

「……泣きすぎだろ」

「だって……う、嬉しくて……。これでまた騎士を目指せると思うと……」


 猫っ毛のふわふわ髪の少年は、ゆっくりとマリアの手を離した。
 離す直前に、もう一度「ありがとう」と言った。

 マリアはコクリと頷く。
 少年はひとしきり泣いたあと、また思い出したかのようにグレイに抗議を始めた。
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