心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「……起きていたのか」
そう声をかけると、マリアはコクリと頷いた。
いつも檻の奥にいたのに、今日は格子の近くに座っている。
グレイは無言のまま格子の隙間から手を入れ、マリアの眼帯を外した。
月が欠けている事と関係しているのか、最初に見た時よりも黄金の瞳の輝きが少ない。
それでもキラッと光るその瞳には、やはり見る者の心を揺り動かす力がある。
「……今日は、その……お前と話をしに来た」
グレイは少しかしこまった感じで言った。
いつも堂々と、はっきりキッパリ言葉を発するグレイが言い淀んだ姿を見て、マリアはキョトンと目を丸くした。
そんなマリアを見て、グレイはうっ……と言葉に詰まる。
今日はマリアと会話をするつもりで意気込んできたものの、グレイは今まで人とまともに会話をしたことがなかったからだ。